士師記11章-1

士師記
=本章の内容=
❶エフタの生い立ちと今❷ギルアデの首領となるエフタ➌アンモン人との外交交渉・
=ポイント聖句=27,私はあなたに罪を犯していないのに、あなたは私に戦いを挑んで、私に害を加えようとしている。審判者であられる主が、今日、イスラエル人とアンモン人の間をさばいてくださるように。
=黙想の記録=❶1-3節:エフタの生い立ちと今…「1-3,さて、エフタはギルアデ出身の勇士でしたが、母親は売春婦でした。父ギルアデには、正妻の産んだ数人の息子がいました。息子たちは成長すると、腹違いの兄弟エフタを、ギルアデの地から追い出しました。「売春婦の子に、父の財産などこれっぽっちもやるわけにはいかない」というわけです。エフタは父の家を飛び出し、トブの地に移り住みました。まもなく、そこでならず者たちを従えるようになり、盗みを働いて日々を送っていました。(リビングバイブル)」とあるように肩書に「勇士」とついていても実質家族のいない天涯孤独の人物がエフタでした。リビングバイブルはより分かり易く生活苦の為に「窃盗をしていた」とまで書いています。当然「ならず者や半端者」が集まってくるのは当然です。しかし恐らく相手は同胞ではなく裕福な異邦人が対象と思われます。でなければ、同胞から助けを求めには来ないでしょう。中にはエフタの生い立ちに同情したり、エフタの強さや潔さに憧れ兄弟関係になりたいと思う者もいたのではないでしょうか。「ならず者や半端者」から命知らずのエフタの私兵になる者も出てきたのは当然でしょう。この私兵の強さを見込んで来たのがギルアデの長老たちです。
❷4-11節:ギルアデの首領となるエフタ・・・アンモン人がイスラエルに侵略する兆候が出ると、エフタを見捨てたギルアデの長老たちがエフタと一軍団となった彼の私兵に助けを求めてきます。エフタはギルアデの長老たちに今までの理不尽な扱いを訴え彼らに猛省を促し、ギルアデを支援する代わりにギルアデの首領になることを長老たちに約束させます。この辺りをリビングバイブルが分かり易く翻訳しています。『6-11節指揮官としてアモン人と戦ってくれるように頼みました。しかし、エフタは冷ややかに答えるばかりでした。「私を憎むあまりに父の家から追い出しておきながら、どうしてここへ来たのです。自分たちが困ったからって、今さらよくも来られたものですね。」
「どうしてもおまえに帰ってもらいたいんだ。もし総指揮官としてアモン軍と戦ってくれたら、ギルアデの住民のかしらになってもらう。」「ほんとうかな。とても信じられないが。」「主にかけて誓う。」こう言われて、エフタも気を変え、彼らの願いどおり総指揮官となり、彼らのかしらになりました。この契約は、人々がミツパに集まった時、主の前で結ばれました。』そこで「主にかけて誓う」と言葉を長老たちが使った場合、この誓いを反故にしたなら、エフタは彼らを正当に処刑できることになるのです。つまり「主のみ名をみだりに唱えてはならない」また「隣人に偽証してはならない」という律法に抵触することになるからで、この律法を守らない者は死罪となるのです。文字通り長老たちは命がけだったのです。
➌12-28節:アンモン人との外交交渉・・・エフタは当初外交努力を試みた。アンモン人がイスラエルに今侵攻してくる至当な理由を問いただした。その概要は「イスラエルがエジプトを後にしてから自分の領土を正当な理由もなく奪い取った。ゆえに領土を取り返すために来ている。」とのことでした。これに対してエフタはイスラエル人の歴史からその正当性を立証してみせました。内容を要約すると以下の通りです。しかしこの説明も初めからアンモン人には馬耳東風だったのです。
1.イスラエルがカナンに入るとき、カデシュ・バルネアから北上する道を取らなかった。
2.死海の東へを廻って、ヨルダン川の東から入る道を選んだ。
3.死海の南のエドム人が領地を通過する為許可を求めたが拒否された。
4.エドム人の領土またモアブ人の領土を迂回した。
5.アルノン川のすぐ南に宿営していたが、アルノン川北はエモリ人の領土でエモリ人の王シホンはイスラエルに攻撃してきたのでや防戦した。
6.イスラエルが勝利し、アルノン川からヤボク川までの土地を占領した。
7.つまりアンモン人が要求している地域はアンモン人のものではない。
※「三百年間住んでいたのに」の記述があるがこの部分はどう解釈したらよいか不明のままです。300年前は族長ヤコブの時代です。この辺りの記録は創世記となるわけですが、創世記を含むモーセ五書が現在の形に編集された時期は、紀元前550年前後のバビロニア捕囚期です。つまり士師記の時代は口伝によるものです。口伝による歴史情報も把握していたことからすると、エフタのユダヤ人としてのアイデンティティーの高さが偲ばれるのです。
8.こうした歴史の背景には我らが信じる主なる神がいる。この方によって私達は今日の領土を獲得できたのだ。つまり神聖な権利なのだ。ならば、あなた方の信奉している神ケモシュが命じるままに自分の領土を守るがよい。・・・この部分は「決戦をも厭わない」という果し状にも聞こえてくる。
●戦略的に見れば、この使者のやり取りはエフタ軍の準備のためにどうしても必要な時間の捻出の為かと思われます。しかしエフタのメッセージの中に「主なる神が与えてくださった神聖な権利」であることに安堵しませんか。ギルアデの長老たちの誓いの言葉にも「主なる神」が登場してきますが、「主なる神」の言葉は多少なりとも信仰心が無ければ発せられないものです。
=注目語句=語句①トブ(3):英語Tob:;ヘブル語トーブ[良い]
語句②アンモン人(4):英語Ammon;ヘブル語エァモーン[部族の]・・・ヘブライの伝統ではこの部族をロトの子孫としイスラエル人と結びつけている(創世記19:38)。旧約聖書での彼らの呼称は「ベン·アンミ」「ベネ·アンモン」=「私の民の息子」、「私の民の子供たち」とあり、イスラエルと親戚関係にあることが言われている。それゆえイスラエル人は約束の地へ向かう際に彼らとの争いを避けるように命じられている(出2:19)。彼らの住まいは死海とヨルダン川の東、アルノン川とヤボク川の間にあったが、イスラエル人の前進を拒んだばかりか戦いを挑んできたので、イスラエルに占領されてしまう。 (民数記21:21-31)。
語句③首領(6):英語captain;ヘブル語カツィーン[首長,支配者,司令官(戦闘時の)]
語句④ケモシュ(24):英語Chemosh;ヘブル語ケモッシュ[征服者]・・・後にソロモンはエルサレムでケモシュの礼拝を始めた(列王記11:7、列王記23:13)
=注目人物=人物①エフタ(1):英語Jephthah;ヘブル語イェタフ[エホバが開く]・・・ガド族
人物②シホン(18):英語Sihon king;ヘブル語スィホーン[戦士]
人物③バラク(25):英語Balak;ヘブル語バラーク[破壊者]・・・モアブの王ツィポルの子