士師記6章-3

士師記
=本章の内容=

❺羊の毛皮のしるし

=ポイント聖句=

39-40ギデオンは神に言った。「私に向かって御怒りを燃やさないでください。私にもう一度だけ言わせてください。どうか、この羊の毛でもう一度だけ試みさせてください。今度はこの羊の毛だけが乾いていて、土全体には露が降りるようにしてください。」神はその夜、そのようにされた。羊の毛だけが乾いていて、土全体には露が降りていたのであった。

=黙想の記録=

❺33-40節:羊の毛皮のしるし
[1]33-35節:バアルの祭壇破壊事件の影響は小さな地域の出来事に収まらなかったのでしょうか。カナン人の神々を愚弄したこの事件が反撃の狼煙と見えたのでしょうか。ミディアン人やアマレク人、また東方の人々を連合させイスラエル侵攻を本格化させてしまうのです。この時のギデオンは酒舟の中で隠れていたような優柔不断で気弱なギデオンではないのです。「34,・・・ギデオンが召集ラッパを吹き鳴らすと、アビエゼルの男たちが結集しました。(リビングバイブル)」はすでに部族内で取り決められた約束だったのでしょう。たちまち一氏族が集まります。次に早馬等で伝令を送ると恐らく数日後にはマナセ、アシェル、ゼブルン、ナフタリ部族の戦士が続々と集まる予定でした。ヨアシュの末子ギデオン一個人の体験が家族へ、一族郎党へ、一氏族(アビエゼル人)、一部族(マナセ族)、イスラエル数部族にと反撃の輪が広がっていくのです。ギデオンは今や数部族を率いるイスラエルのヒーローとなるのです。と、格好いいギデオンはここまで。

[2]36-40節:すでにギデオンは神様のしるしを目の当たりにしていたのです。戦いの準備が着々と整っているにも拘わらず、ここでギデオンは主なる神様にしるしを求めるのです。ギデオンのこの態度の真意はどこにあるのでしょうか。

◆科学的観点でこの2つの申し出を観察してみます。

①まず季節です。・・・11節でギデオンは麦打ち(小麦の脱穀)をしていたとあることから季節は初夏から真夏の時期で、湿度が高い時期です。結露が起こりやすいのです。

②次に羊のことです。・・・西アジアに生息した野生羊はユリアルとムフロンという種類でしたがこの当時はこれらを家畜化していました。厳しい自然の中で育った原始的な羊ですから、毛足が長くて強く、敷物の材料としては最適でした。羊毛の主成分はケラチンというタンパク質です。表面はうろこ状のスケール(毛髪のキューティクルのようなもの)で覆われています。スケールの表面で水を弾きつつ、水滴より小さな水蒸気を隙間から吸水。

③次にギデオンが地面に置いた羊毛のことです。・・・ギデオンのいる地域は湿潤な地域ですが昼夜の寒暖差が大きい場所でもあります。したがって夜間空気中の湿気を羊毛が吸い取り朝になると温度の低くなった地面に接している羊毛の部分は結露が起こり水分を多量に含むことになり地面は放射冷却現象で逆に渇くことになります。すると「37,羊の毛だけに露が降りていて、土全体が乾いていたら、」は自然現象で解決されてしまい奇跡とは言えなくなるのです。このくらいの現象なら現地の人間なら誰でも分かりきっていることです。一番目の実験結果に「神」の単語は見つかりません。

④しかし二番目の奇跡は物理的に決して起こりえないことです。この二番目の奇跡こそはギデオンの期待するものだったのです。・・・「40,神はその夜、そのようにされた。羊の毛だけが乾いていて、土全体には露が降りていたのであった。」と士師記の作者は「神」という言葉をわざわざ挿入しているのです。これはギデオンとって予想外の未来です。ギデオンの二つの要求に対し主なる神様はギデオンが指定した結果を二つとも約束していませんが実現してしまいます。まとめると第一のしるしはその地域の人間なら誰でも知る自然現象で、第二のしるしは超自然現象なのです。そうなら始めから第二のしるしだけ求めラバ良かったのではないでしょうか。なぞが残ります。

◆そこで今度は「この二つのしるしを要求しその結果が出るのに三日を要している」ことに着目します。角笛(招集ラッパ)でアビエゼル人の男たちが結集しましたが、伝令を送ってもマナセ、アシェル、ゼブルン、ナフタリ部族からはまだ「兵を送る」の返事さへ来ていないのです。全ての部族から戦士が集まるには相当の日数を要するはずです。アビエゼル人数百人程度ではこの戦到底勝ち目はないのです。つまり、このしるしの要求は他部族からの援軍が到着するまでの時間稼ぎだったのです。結果的にはこの三日間の遅延で32000人の兵が集まって来たのです。この兵士の数なら勝ち目があるとギデオンは安心したことでしょう。振り返ってみてください。他部族を招集する様に主なる神様は命じていたでしょうか。いいえ。主なる神様はそんな指令を出していないのです。伝令を送ったのはギデオンの独断です。「ミディアン人を撃退する」には相当数の兵が居なければならないと彼は勝手に思い込んでいたのです。神様の御心を尋ねるより自分の知識や経験値を優先したのです。つまりギデオンはこの期に及んでも主なる神様の力を全面的に信じてはいなかったことになるのです。
基督者の指導者もよく陥る過ちの一つです。神様の御計画を尋ね求めるステップを飛ばして自分の計画で神様の御心を実行しようとする過ちのことです。

●「主の霊がギデオンをおおった」とありますが、新約での「御霊に満たされなさい(エペソ5:18)」とは異なる状態を表現しています。「34,主の霊がギデオンをおおった(新改訳2017・新共同訳)」は三つの英語訳もそしてヘブル語も「外側から人体を覆う」表現となっていて「御霊に満たされなさい(エペソ5:18)」では「内側から満たされる」表現とは明らかに異なります。エペソ5章は心の聖潔における御霊の働きを述べていますが、ここでは戦いにおける活力や勇気が御霊によって沸き上がったあるいは備えられたと解釈した方が良いと思われます。
「34すると、主の霊がギデオンをとらえたので、(リビングバイブル)」
「the Spirit of the LORD came upon Gideon(KJV)」~に偶然出会う、~を偶然見つける
「the Spirit of the LORD took possession of Gideon(NLT)」~を手に入れる、~を入手[所有]する
「the Spirit of the LORD clothed Gideon」~をおおう、~を包む、~にまとわせる
ヘブル語ラバーシュ[~を着る、~身に着ける]

士師記

Posted by kerneltender