士師記4章

士師記 4章
=本章の内容=
❶女預言者デボラとキション川での戦い
=ポイント聖句=6-7:あるとき、デボラは人を遣わして、ナフタリのケデシュからアビノアムの子バラクを呼び寄せ、彼に言った。「イスラエルの神、主はこう命じられたではありませんか。『行って、タボル山に陣を敷け。ナフタリ族とゼブルン族の中から一万人を取れ。わたしはヤビンの軍の長シセラとその戦車と大軍を、キション川のあなたのところに引き寄せ、彼をあなたの手に渡す』と。」
=黙想の記録=●本章に登場するヤビンはヨシュア時代の人物ではありません。別人かあるいは死亡したヤビンに代わって実権を握っていたのがシセラであったという説もあります。鉄の戦車を自国生産できるほどの軍需産業や鉄鋼業が発達していたハツォルは当時とすれば超近代都市国家と言えます。また戦車900台を乗りこなす熟練した戦士もいたわけです。一方当時のイスラエルはこうした技術はおろか武器もまともになかったのです。勝ち目が始めからないのです。しかし、イスラエルにとっては主なる神が参謀長なので軍事力は劣っても勝利を得ることは確実だったのです。今回は女預言者のデボラが神様から使わされた参謀の一人でした。
❶4-5節「4,・・・デボラが、そのころイスラエルをさばいていた。」で「さばいていた」とある場合、民を指導していたという意味と同時に必ず宗教的な改革や粛清がされていたのです。つまりデボラの指導によってイスラエルの信仰心は正常であったと言えるのです。「デボラのなつめ椰子の木」とあるのは遠方からでも確認できるほどの巨木であったと思われます。デボラに指示を仰ごうとするイスラエル人にとっての目印となっていたのではないでしょうか。
❷6-16節:バラク率いるイスラエルの素人軍隊対シセラ率いる最新鋭部隊との戦いの顛末が記されています。
[1]デボラに委ねられた神の託宣は次の通りです。「6-7:『行って、タボル山に陣を敷け。ナフタリ族とゼブルン族の中から一万人を取れ。わたしはヤビンの軍の長シセラとその戦車と大軍を、キション川のあなたのところに引き寄せ、彼をあなたの手に渡す』このデボラの言うことを神からのものと信じるには大変勇気がいることです。なぜなら、シセラ率いる最新鋭部隊の様子を聞いていたからです。ここに全イスラエルの信仰が試されたのです。
[2]バラクはデボラの同行を求める:女預言者の同行を求めるなどバラクの戦士としての資質が疑われてしまう言動です。以前に出現した3人の士師のことを彼は学習していなかったのでしょうか。もちろん伝え聞いていたでしょう。しかしそれが信仰と結びついていなかったのです。
[4]デボラが同行を約束:ところが概ね勝ち戦だったものの肝心のヤビンの軍の長シセラを討ち取るのはバラクではないと宣告されます。
[3]イスラエル兵の招集:ナフタリとダンの部族から1万人の兵・・・ところがナフタリ・ダンの二部族の兵は戦いに不慣れであり歩兵部隊だけでしかも十分な武具なかったのです。バラクにすればどれだけ心許ないことでしょう。デボラに泣き言を言うのも無理はありません。
[4]タボル山に陣を構える:タボル山は標高周りの平地からすると400mに過ぎない低い山です。1万人が集結すると低地から兵がうごめいているのがいっぺんに分かってしまうのです。戦略的には素人丸出しのあまりにも無防備な陣備です。でもこれはデボラに託された神の託宣です。兵も神の言葉に従って様子がはっきりと汲み取れる箇所とも言えます。
[5]シセラ軍の敗退:シセラ軍はキション川に戦車隊を含めた群を移動させます。この作戦がシセラ軍に大きな災いをもたらすのです。士師記5:20-21の表現を見ると「天の星さえもシセラと戦った。キションの逆巻く流れが彼らを押し流したのだ。(リビングバイブル)」とあり、これは明らかに異常気象が起こり、雹を含む現代で言うところの警報級の大雨が降り、たちまちキション川が氾濫。河川に留まっていた戦車隊や多くの兵が一瞬のうちに押し流されるのです。シセラ軍の一部は地中海まで流されたという説もあります。すでに弱体化したシセラ軍は壊滅状態となったのです。
※この戦闘はエリコ陥落を思わせる神様の介入がはっきりと確認できるものだったのです。
➌17-24節:将軍シセラの最後はあまりにも惨めなものでした。
[1]ヤエルの夫はヤビンと友好関係にあったもののヤエル自身はいくつかの理由でこの友好関係を快く思っていなかったようです。それは自分たちの先祖がイスラエルの指導者モーセとは親戚関係であったこと、さらには将軍シセラは敗軍の将でやがてイスラエル兵が捜索に来た際にかくまった事実が分かればきっと累が及ぶと予感していたからでしょう。
[2]シセラはヤエルの歓待を受け安心しきって熟睡してしまう。そこでヤエルはシセラのこめかみに杭を打ち込んで地に突き刺し殺害してしまう。
●本章から学ぶポイントは以下の通りです。
[1]シセラから学ぶこと・・・自分の実力を過信することや神様抜きの人脈に頼ろうとすることは人生における致命傷を負わせられる結果を招くこと。
[2]デボラとバラクから学ぶこと・・・神様の約束は必ず成就されるという確信をもって一歩を踏み出すこと。しかしその前に神様の言葉に従う訓練を受けておく必要がおおいにあること。
人物①ヤビン(2,3,7,17,23):英語Jabin(KJV・NLT);ヘブル語ヤビーン[知恵のある者」 ・・・この語句は、北カナン人の間では世襲の王権の呼称だったかもしれない。
※[1]ヨシュアに対抗して同盟を率いた北パレスチナの主要都市「ハザールの王」。彼はメロムの水の中で敗れ、その町は占領され、ヤビンは殺された(ヨシュア記11:1-9)。
※[2] 紀元前12世紀頃にイスラエル北部を支配していたカナン人の王。「カナンの王」と呼ばれるもう一人のハツォルの王は、ヨシュアの死後百六十年後に北のイスラエル人を支配し、二十年間彼らを苦しめた。
人物②シセラ:英語Sisera;ヘブル語スィセ・ラ[太陽神ラーの僕]ヤビンの将軍。強大な軍事力を自由に操ることのできる将軍だったが、圧倒的な軍事力差を過信するあまり、イスラエルとの戦闘ではたいした策をもっていなかった。敗戦はこれが原因だった。
※ヤビンがヨシュアによって殺害されたので、シセラが実権を握っていたという説もある。
人物③バラム:英語Deborah(KJV);ヘブル語デブォラー[みつばち]・・・旧約聖書に6人の女預言者が登場する:ミリアム(出エジプト15:20)・デボラ(士師記4:4)・フルダ(列王記第二22:14)・ノアデヤ(ネヘミヤ6:14)・無名(イザヤ8:3)。この中でミリアム・デボラ・フルダの三人は未来預言をするわけではなく、神様の託宣を語るメッセンジャーの役割を果たしていた。
人物④バラク:英語Barak(KJV);ヘブル語バラーク[稲妻]・・・逃れの町ケデシュのアビノアムの息子。デボラによって招集された。
人物⑤ヤエル:英語Jael(KJV) ;ヘブル語ヤエイル[山羊]・・・モーセの舅は遊牧民。そしてヤエル自身もその夫も遊牧民のはず。遊牧民なら天幕を張る作業は女性の仕事でもある。天幕の杭を槌で打ち込むのは当たり前にできること。