サムエル記第二20章-2

サムエル記第二20章-2(4-13節)
=本章の内容=

➌アマサの最期

=ポイント聖句=

8,彼らがギブオンにある大きな石のそばに来たとき、アマサが彼らの前にやって来た。ヨアブは自分のよろいを身に着け、さやに収めた剣を腰の上に帯で結び付けていた。彼が進み出ると、剣が落ちた。

12,アマサは大路の真ん中で、血まみれになって転がっていた。この若者は、兵がみな立ち止まるのを見て、アマサを大路から野原に運んだ。そして、その傍らを通る者がみな立ち止まるのを見ると、彼の上に衣を掛けた。

[アマサが殺害されるまでの経緯] [1]アマサにダビデから「ユダ族全体からの民兵等を3日以内に召集しシェバを攻撃せよ」との命令が下る

[2]アマサは3日以内に兵が召集できなかった。

[3]ダビデはアビシャイにシェバ討伐を命じる

[4]アビシャイは兄ヨアブの精鋭部隊とダビデ直属の常備軍、そして外国人傭兵部隊を率いて戦場に向かう

[5]戦場に向かう途中ヨアブはアマサを待ち受け殺害する

=黙想の記録=

➌4-13節:アマサの最期

[アマサの思惑]シェバの反乱が拡大するのを一刻も早く阻止する為、ダビデは先に任命した将軍アマサに3日以内に軍を召集しシェバを攻撃するように命じました。アマサはアブシャロムに任命された敵側の将軍でしたが主君を失って右往左往しているところにダビデの温情によりダビデ軍の将軍として異例の抜擢を受けていたのです(Ⅱサムエル19:13)。このダビデの恩に報いるのは今をおいてはないのです。三日の期限を過ぎてもアマサは出兵ができません。なぜなら大方の民兵はヨアブの息のかかったものばかりで、アマサが統率できたのはヘブロンを中心にしたユダ族のほんの一握りの地域の民兵に過ぎないのです。また先の戦いでアブシャロムの為に集まった20000人の兵をすでに失い手持ちの兵は皆無の筈です。しびれを切らしたダビデはアビシャイに軍を率いるよう命じます。ところでアマサが期限を守れなかったのはアマサの悪知恵と見る説もあります。つまり端から兵を召集するつもりはなかったとの説です。アブシャロム亡き後ダビデに担ぎ出されてエルサレムで将軍職に命じられたのは無血でエルサレムを引き渡すためのダビデの奇策であると承知していたのです。軍の実権はヨアブが握っています。自分が召集もかけられない役立たずの将軍であることを演出すればダビデはきっとヨアブを引き出すに違いないと思ったのです。その時は潔くヨアブに将軍職を譲渡すれば良いと思っていたのです。しかしここで誤算が生じます。第一に確かに将軍職を解かれましたが将軍職を引き継いだのはヨアブではなく弟のアビシャイです。第二にアブシャロムの時には銃後の守りとしてエルサレムから一歩も外に出ていなかったですが、今度は自らも一兵卒として戦地に赴くことです。

[ヨアブの思惑と行動]次に老将軍ヨアブに関してですが、ダビデ軍の実権はヨアブが握っていることを承知しながらダビデはヨアブの頭越しにアビシャイに将軍職を引き継がせるのです。イスラエル10部族に影響力のあったアブネルの殺害、息子アブシャロムの殺害について結局ダビデはヨアブに対して公式に処罰を下してはいません。ただ重要な官職に付けないという対応をしただけです。二人して大喧嘩も覚悟のうえで腹を割って話し合いでもすればいずれも問題は起こらなかったのです。ところが今回もダビデはヨアブに一言も話しかけてはいないのです。軍の実権を掌握しているヨアブです。アサフを殺害してもきっとお咎めなしと踏んだヨアブはサウル軍と戦った因縁の場所でアサフを待ち受け不意を突いて殺害するのです。『8-10・・・ヨアブは自分のよろいを身に着け、さやに収めた剣を腰の上に帯で結び付けていた。彼が進み出ると、剣が落ちた。ヨアブはアマサに「兄弟、おまえは無事か」と言って、アマサに口づけしようとして、右手でアマサのひげをつかんだ。アマサはヨアブの手にある剣に気をつけていなかった。ヨアブは彼の下腹を突いた。』古代イスラエルでも「帯と剣」は権威と強さの象徴であり「戦士や指導者」が身に着けるものでした。ヨアブの服装は単に戦いへの準備ができていることを示すだけでなく「彼の立場と目的」を達成するために武力を行使する意欲を表明しているものです。そのヨアブが突然現れたのです。アマサに腹心の部下が居ればヨアブのこの行動に主君を守るべく咄嗟の行動を取ったことでしょう。しかし彼は将軍職を外されたわけですから護衛する者は皆無と思われます。ヨアブのされるがままに身体を引き付けられ剣で腹部を深くえぐられる様に刺されるのです。剣は落ちたのではなくわざと落としたのです。一度はヨアブを出し抜いて将軍職に任じられたアマサに対し、「最初にして最後の敬礼の姿勢」をとってあげたのです。これから自分の手で殺害する哀れなアサフへの皮肉たっぷりの行動だったのです。こうしてアサフはあっけなく殺害されます。「11,ヨアブに仕える若者」とはアブシャロム殺害に関与した例の10人の猛者のことです。ヨアブに死に至るまでの忠誠を誓っている者達です。アサフが殺害された現場にいてアサフに情けを掛けようとする者を監視し排除する役割の部下でした。またダビデにこの事件を報告する為に戻る者を何人たりとも許さなかったのです。一度は将軍職に就いたアサフの血まみれの姿を見て動揺しない兵はいなかったのです。そこでその監視役の兵士は道端から遺体を無造作に移動し衣を掛けて放置してしまうのです。アサフの埋葬について記述がありません。恐らくその放置された場所がアサフの墓場となってしまったことでしょう。ヨアブの強引さを目の当たりにしながら兵は前進しか許されなかったのです。こうしてアサフは名実ともに最高司令官として復帰し全軍を率いてシェバ討伐に向かいます。

=注目語句=

語句①クレタ人(7):英語Cherethites;ヘブル語ケレィスィ[死刑執行人,実行者]・・・ダビデ王の護衛として働く外国傭兵のグループ。処刑人もいた。クレタ人または原始ペリシテ人のいずれか。

語句②ペレテ人(7):英語Pelethites;ヘブル語ペレィスィ[案内人,ガイド,急使;特使,密使.]・・・おそらくペリシテ人傭兵の子孫

語句③ベリ人(14):英語Berites;ヘブル語べリーム[私の井戸]・・・イスラエル北方にすんでいたベニヤ民族のことと推測されている