サムエル記第二5章-1

2024年6月27日

サムエル記第二5章-1(1-12)
=本章の内容=

❶全イスラエルの王ダビデ❷ダビデの町エルサレム

=ポイント聖句=

3,イスラエルの全長老はヘブロンの王のもとに来た。ダビデ王はヘブロンで、主の御前に彼らと契約を結び、彼らはダビデに油を注いでイスラエルの王とした。
9,ダビデはこの要害に住み、これを「ダビデの町」と呼んだ。ダビデはその周りに城壁を、ミロから一周するまで築いた。

=黙想の記録=

❶1-5節:全イスラエルの王ダビデ・・・ダビデは推定30歳でユダの王となり、7年後37歳で全イスラエルの王となります。サムエルの油注ぎ(推定12歳)から実に25年も経過しています。サウル王以前のイスラエルはそれぞれに自治権を持った12部族から構成された連合国でした。サウルは初代国王でしたが全イスラエルを掌握しておらず部族の勢力はそのままでした。士師記時代のように外敵への盾となり槍となる人物が居れば協力を惜しまないという程度の従属の仕方でした。ダビデが全イスラエルの国王となった初期段階でも同様な体制でした。アブネルやイシュ・ボシェテの死で11部族は後ろ盾を失いました。無政府状態となった今これを好機としてペリシテ連合軍が急襲することを恐れ、11部族の族長たちは間髪を入れずにヘブロンにやってきて11部族の保護を目的にダビデを国王として擁立します。「1-2,ご覧ください。私たちはあなたの骨肉です。これまで、サウルが私たちの王であったときでさえ、イスラエルを動かしていたのはあなたでした。主はあなたに言われました。『あなたがわたしの民イスラエルを牧し、あなたがイスラエルの君主となる』と。」の部族長の言葉は今までダビデをさんざん白眼視しておいてこの場において良くそんな言葉が言えたものです。預言者ガド(恐らくサムエル記の作者)はわざわざ彼らの言葉を記録したのですが、その言葉にはどこか白々しさを感じるのす。

❷6-12節:ダビデの町エルサレム・・・ヘブロンはユダ族の領地内にあり11部族との交流にはいささか不便な位置にあります。そこでダビデはエブス人の地に目をつけます。エルサレムは三方を壁面の険しい渓谷で囲まれている丘陵地帯で自然の要塞と呼べます。元のエルサレムの王はヨシュアによって打ち負かされ(ヨシュア10:23-26)、ユダ部族に破壊され(士師記1:21)、その後、再び完全にエブス人の手に落ちました(士師記19:11-)。ダビデはエルサレムを奪還しそこに全イスラエルの首都を建設することを目論見ました。が、同時にこの作戦には他の11部族との軍事協調を図る意図もあったのです。つまり全イスラエルが一致した行動ができるかどうかの試金石でもあったのです。(Ⅰ歴代誌11:4)『 6さてダビデは、エルサレムに入り込んでいたエブス人と戦うために、兵を率いてエルサレムへ向かいました。彼らはダビデにこう豪語しました。「おまえなどに攻め入られてたまるか。おまえなど、歩けない者であろうと、目の見えない者であろうと、だれにでも簡単につまみ出せるわ!」彼らは安心しきっていました。(リビングバイブル)』とありますが、イスラエル軍をだいぶ見くびった言い方です。確かに長らくイスラエルのど真ん中にありながら長らくエルサレムを実効支配してきたのはエブス人です。そしてダビデの属するユダ族ですらエブス人を追い払うことができなかったわけです。なぜならエルサレムが断崖絶壁の上にあり更にその上にエブス人が立てた城壁があるため正面突破はまず不可能です。よじ登ろうとすれば大きな石を落とされたり矢を射かけられてしまうからです。『8,その日ダビデは、「だれでもエブス人を討とうとする者は、水汲みの地下道を通って、ダビデの心が憎む『足の萎えた者どもや目の見えない者ども』を討て」と言った。・・・』この要塞都市攻略に当たって一番活躍したのがヨアブです。ヨアブはここでの活躍により将軍職を復活します(Ⅰ歴代誌11:6)。ヨアブの部隊はエブス人の城壁(シオンの城塞)の真下にあり守備隊から死角に当たるギホンの泉から侵入を図ります。ここから城内までは人一人が通れるほどの横抗を進み高さ13mもある竪抗をよじ登って城内に入ることができたのですま。それが「水汲みの地下道を通って」の意味です。この地下抗を使って難無く侵入できたダビデ軍がシオンの城塞の守備隊を愚弄し返した言葉が『足の萎えた者どもや目の見えない者ども』で、「何の反撃もできなかった守備隊こそ足の萎えた者どもや目の見えない者どである。」との意味だったのです。(作戦実行に当たって恐らくこの地下抗の情報を内部に精通する者から聞き出しておく必要があります。ヨアブには情報取集能力があったのでしょう。)『8,・・・それで、「目の見えない者や足の萎えた者は王宮に入ってはならない」と言われるようになった。』は後世のイスラエル人が日常で使っていることわざになった訳ですが、とても難解な個所です。ここは「身体障害者は王宮に入ることが許されていない」という意味ではありません。「盲目で足の不自由な人」という形容詞は古代イスラエルでは一般的に「嫌悪感を抱く様な人物」という意味です。つまり他人のことをさんざん罵倒している様な人物(まるでこの戦いの時のエブス人の様な人物)を宮(各自の家)に入れてもてなすことなどありえないという意味です。「9,ダビデはこの要害に住み、これを「ダビデの町」と呼んだ。ダビデはその周りに城壁を、ミロから一周するまで築いた。」とあるように、ダビデはエブス人の城壁を今まであった場所からさらに北東部(ミロ)に城壁を延長します。この場所にダビデの家族やその一族またヘブロンで集まって来た人々の居住地を建設していきます。難攻不落の要塞都市が築き上げられていきます。「11,ツロの王ヒラムは、ダビデのもとに使者と、杉材、木工、石工を送った。彼らはダビデのために王宮を建てた。」とありますが、ダビデの宮殿は、彼の治世の最後の8年以前に建てられたのでエルサレム攻略からだいぶ経緯したときになります。また以降ツロの様な諸外国と対等に渡り合い交易が盛んになるのはダビデの治世の後半の出来事です。「12,ダビデは、主が自分をイスラエルの王として堅く立て、主の民イスラエルのために、自分の王国を高めてくださったことを知った。」とありますが、サムエル記の作者はこの時点がダビデの人生の最高地点であると宣言しているようです。この後ダビデは凋落の一途を辿るようになっていきます。

=注目語句=

語句①エブス人(6):英語Jebusites;ヘブル語イェビスィー・・・イスラエル定着以前のカナン先住民族。エブス(エルサレム地方)に居住していた。

語句②大いなる者(10):英語grew great;ヘブル語ガドール[偉大な,傑出した] =注目地名=

地名①エルサレム(5):英語Jerusalem;ヘブル語イェシャライム[平和の教え]・・・現在のエルサレムの面積は625平方キロメートルでほぼ東京都の面積と同じ。乾燥地帯ではあるが地下水が豊富。直線距離で地中海から65km死海から25km。アブラハムがメルキゼデクから祝福を受けたのがこのエルサレムである(創世記14:17-19)。

地名②シオンの要害(7):英語the strong hold of Zion;ヘブル語マツード・シオーン[要塞・乾燥地]

地名③ミロ(9):英語Millo;ヘブル語ミロウ[傾斜地]・・・エルサレムの要塞の一部

地名④ツロ(11) :英語Tyre;ヘブル語ソール[岩]・・・地中海沿岸のフェニキアの都市。都市の起こりは紀元前2500年ごろといわれている。ティルスは紀元前1000年頃、ティルス王ヒラムが陸地から1キロメートルほど離れた小島に移した。紀元前332年に半島となった。ユネスコの世界遺産。

=注目人名=

人名①ヒラム(11):英語Hiram;ヘブル語ヒラーム[高貴]・・・在位:紀元前969年―936年。ダビデのための宮殿とソロモンのための神殿の両方を建てるためにエルサレムに職人と材料を送った人物。