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サムエル記第一28章-2

サムエル記第一28章-2(7-25節)
=本章の内容=

➌霊媒師の演技とサウルの現実逃避

=ポイント聖句=

19,主は、あなたと一緒にイスラエルをペリシテ人の手に渡される。明日、あなたもあなたの息子たちも、私と一緒になるだろう。主は、イスラエルの陣営をペリシテ人の手に渡されるのだ。

=黙想の記録=

➌7-25節:霊媒師の演技とサウルの現実逃避・・・前回霊媒師について科学的根拠がないと明確に記しましたが、ではなぜ古の人も現代人も往往にして騙されやすいのでしょうか。彼らは一流の情報通にしてプロの演技者です。声色を使って他人に成りすますことができます。激しい身振り手振りで依頼者を脅かしたり泣かせたりして自由に感情を弄(もてあそ)ぶことができます。最も得意とする演技は死者が一時的蘇生したように見せかけることです。事前に入手していた依頼者の緻密な情報を分析し依頼者にとって都合のいい話や、場合によっては都合の悪い話をし依頼者の行動を誘導しようとします。これが悪魔の業なのです。つまり虚偽であることを真実の様に見せかけることを悪魔は得意としているのです。一方サウルには正確な社会情勢を伝えてくれるに人物に欠けています。かつては最前線にいたダビデがいましたが彼を追放しています。また絶えずアドバイスをしてくれたアブネルがいましたが前回のダビデ追跡の時に指摘されたので恐らく彼を遠ざけていたと思われるのです。こうした意味で言えばサウルは情報弱者と言えます。ここで女霊媒師によってサムエルが呼び出されサウルと直接対応した様に表現されていますが、実際は女霊媒師の優れた演技能力描写なのです。話を戻して、サウルが追放したはずの霊媒師に頼ることにしたのは、最終的な指針を得たいと思ったからです。その最終的な指針を与えてくれるのがサムエルと信じていたのです。死んだことによりすべてを水に流してくれるとでも思ったのでしょうか。神様の存在さへ否定するような男が切羽詰まると悪魔にもすがろうとするのです。サウルは変装し二人の従者と一緒に旅をします。ギブアからエン・ドルまで片道約130km。しかもペリシテ人の攻撃を避けて山間部を抜けていかなければなりませんから、ラバやラクダ(平地で時速20-40km)を使ったとしてまた彼らの耐久力から考えて2・3日はかかるでしょう。往復6日以上。これだけの間が開けば事態はもっと深刻になるはずです。8-16節のサウルと霊媒師の会話ですが、この会話はいったい誰が記録したのでしょうか。無論サムエルではありません。この会話を記録した第三者がいるはずです。歴代誌29:29ではナタンまたはガドと記録されているところから、恐らくガドがサウルと霊媒師の会話を人伝に聞いて書き上げたものと思われます。「12,女はサムエルを見て大声で叫んだ。」とあります。過去の著名な絵画ではこの場面に透明な幽霊の姿のサムエルを描いていますが、この女霊媒師にすらサムエルは見えていないはずです。あくまでもそこに現れたふりをしているだけです。古の霊媒師は幻覚を誘引させるお香を焚いたり、依頼者たちに幻覚剤のはいった液体を飲ませる例もあります。現場にいたのは二人の従者しかいません。「サムエルを呼び出せ」と依頼されれば、その依頼主は預言者を必要とする人物であり、相当位の高い人物つまりサウル王と推測できるはずです。そうと分かれば、今までに入手した情報からサウルが欲していることを告げて上げさへすればよいのです。霊媒師は依頼主がサウルと分かるとまず命の保障をサウルに約束させます。この約束を取り付ければ彼女の豊富な情報からサムエルになりきってサウルに自由に宣告できるのです。この霊媒師の語ったことは以下の通りです。サムエルの様な老人の声色を使って話したことでしょう。根が単純なサウルはすっかり騙されてしまうのです。

[1](16)なぜ、私に尋ねるのか。主はあなたから去り、あなたの敵になられたのに。・・・サムエルはサウルとの関係性を絶っていたのです。

[2](17)主は、あなたの手から王位をはぎ取って、あなたの友ダビデに与えられた。・・・霊媒師はここで「あなたの敵」と言わずに「あなたの友」と慎重に言葉を選んでいます。サムエルは生前サウルがダビデを亡き者にしようとしていたのを知っていた筈ですから、サウルに忖度して「友」などと言う必要はないのです。
[3] (18)あなたが主の御声に聞き従わず、主の燃える御怒りをもってアマレクを罰しなかったからだ。・・・この事件はイスラエル人なら周知の事実です。王位をダビデに移譲する原因がここにあることもです。

[4](19)主は、あなたと一緒にイスラエルをペリシテ人の手に渡される。明日、あなたもあなたの息子たちも、私と一緒になるだろう。主は、イスラエルの陣営をペリシテ人の手に渡されるのだ。・・・これは未来の領域になり霊媒師の独自の宣告です。しかし、ダビデに王位が移譲されることになっているのなら、異国の例に倣いサウル王朝は消え去るのは当然です。そしてペリシテ軍の圧倒的軍事力を前にしてサウル常備軍だけでは適う筈がありません。このペリシテ軍との戦いがサウル王朝を消し去る要因になることは誰でも直感的にわかるはずです。霊媒師のこの言葉の舌下にあったのは適う相手ではないからダビデに王位をさっさと譲ってダビデに戦わせ、サウルたちは遠方に逃げるのが得策だということなのです。「20,すると、サウルはただちに地面に倒れて棒のようになり、サムエルのことばにおびえた。しかも、その日一昼夜、何も食べていなかったので、力は失せていた。」とありますが、地面に倒れ込むのはこれで二度目です。まるで親にこっぴどく叱られた幼児の様です。「サムエルのことばにおびえた」とありますが、無論サムエルの言葉ではなく霊媒師の作文です。サウルはこの霊媒師の作文した言葉くらいすでに承知していたはずなのです。往復6日間以上もかけて出かけた理由は直面している危機に対して現実逃避するためであり、総司令官不在のままにしておけばどこかの誰かがしゃしゃり出てくると踏んでいたからではないでしょうか。アブネルがその人脈を使いイスラエル全土から勇猛果敢な戦士を集めるとでも期待したのでしょうか。あるいはダビデが帰還することを期待していたのかもしれないのです。あるいは、滅びるのは主なる神様が選び出したイスラエル。ならこの慈愛の神とやらが動き出すのではと思っていたかもしれないのです。サウロ同様「現実逃避・投げやり・丸投げ症候群」は、突然の不幸に見舞われた際の現代の基督者にも起こりうる症状なのです。21-25節で数時間もしないうちに危機的状況に追い込まれていることをケロッと忘れて食事までするサウルの様子が記されています。サウルが物事を深刻に受け止めることができる人物であったのなら、数日間食事はできないはずなのです。つまり全ては他人事なのです。霊媒師のところに行くだけの時間があれば、第一に主なる神様の前に悔い改めができたのです。第二にダビデに心から謝罪し呼び寄せてペリシテ軍掃討の将軍に任命することができたのです。これもサウルに真実な信仰が育っていなかった証拠です。

=注目地名=

地名①エン・ドル(7):英語Endor;ヘブル語アネ・ドル[ドルの泉]・・・イサカルの領土内でまだマナセ部族が所有している場所でタボルから北6.5kmに位置する場所。エルサレムから直線距離で123km。ペリシテ人の5大都市を避けるためには山地側に大きく迂回していかなければならない。大勢で行けばたちまち発見されてしまうことが予想される。

[サムエル記の作者について] 歴代誌29章29-30節で「ダビデ王の生涯のくわしいことは、『預言者サムエルの言行録』『預言者ナタンの言行録』『預言者ガドの言行録』などに載っています。これらの文書には、ダビデ王の政治や威力だけでなく、王とイスラエル、ならびに近隣諸国の王の身に起こったすべての出来事が記録されています。」と記されています。