サムエル記第一24章-1

サムエル記第一24章-1(1-7節)
=本章の内容=
❶上着の裾を切り取ったダビデ
=ポイント聖句=5-6,後になってダビデは、サウルの上着の裾を切り取ったことについて心を痛めた。彼は部下に言った。「私が主に逆らって、主に油注がれた方、私の主君に対して、そのようなことをして手を下すなど、絶対にあり得ないことだ。彼は主に油注がれた方なのだから。」
[ダビデ逃亡生活の経緯] [1]ダビデの居場所がサウルに伝えられる [2]3000人の精鋭部隊を送り出す [3]サウルが洞窟に入る [4]ダビデの部下がサウル暗殺を進言する [5]ダビデは自らサウルの裾を切り落とす・・・サウルもサムエルに似たことを行った [6]部下がサウル暗殺に逸るのをダビデが征する [7]ダビデがサウルの前に出て申し開きする [8]サウルがダビデの弁明に感激する =黙想の記録=❶1-7節:上着の裾を切り取ったダビデ・・・ジフ人が絶えずダビデ一行の動向を監視している為、この乾燥した荒野を横断し死海の岸辺にあるエン・ゲディに避難場所を求めました。エン・ゲディは砂漠地帯というよりは熱帯の楽園のようです。また、ここには多くの奥行きのある洞窟が存在しそれぞれが迷路のように繋がっているところです。ここはダビデとその部下たちにとって身を隠すのに最適な場所でした。一方サウルはダビデの現在位置が掴めたので今度は3000人の精鋭部隊を引き連れて南進していきました。推測ですがダビデ一行はすでにエン・ゲディの西側の洞穴に潜み、ジフ経由で進路を東にかえてエン・ゲディに向かうサウル軍の動向を一部始終偵察していたと思われます。サウル王国の首都ギブアからジフまでは約50km。ジフからエン・ゲディまで約20km。重装備の精鋭部隊でさらに何度もアップダウンを繰り返す悪路ですから目的地まで到達すれば疲労はピークになります。サウル軍は街道沿いで見つけた羊小屋付近で野営します。当時の羊小屋は洞窟の入り口付近に角が取れた小石を積み上げて作られていました。羊を捕食する泥棒や野生動物からさらに保護するためにいばらで覆われています。冷たい嵐が訪れる間や夜間になると羊の群れを洞窟に退避させますが、それ以外の時には外の羊小屋にとどまらせます。これらの洞窟は真夜中のように暗く、目を凝らしても5歩先を見ることができないほどです。しかし長時間内側に居て目が慣れれば入口からの淡い光でも十分に確認できるのです。ダビデが引き連れて来た偵察部隊は洞窟の奥にいるのでサウルが入って来るのを目視できたのです。「用を足す(新改訳2017版・新共同訳)」と訳された語句はヘブル語では「サハッフ・レゲル(足を覆う)」で排泄の婉曲表現です。「人目に付かない洞窟で仮眠を取る」との解釈もあります。仮に後者の解釈を取ると疲労のあまり寝込んでいたサウルを襲うことは簡単にできますが、用を足す程度では容易に勘付かれてしまうでしょう。「今日こそ、主があなた様に、『見よ、わたしはあなたの敵をあなたの手に渡す。彼をあなたの良いと思うようにせよ』と言われた、その日です。」との部下の言葉は至極もっともな進言です。ダビデだけでなく600人の部下を苦しめる相手が目の前に居るのです。サウルを暗殺すれば長期間の虐げられた生活から一瞬で解放されるのです。恐らく指揮官を失った精鋭部隊は解散してしまうでしょう。恐らくこの時点でダビデは部下たちにサムエルが主なる神様がサウルの王位を退けダビデが次期国王として油注ぎを受けていることを語っているはずです。またダビデのこれまでのペリシテ軍との戦いに於いては主なる神様の介在が常にあったことも語っていたことでしょう。つまりサウルが洞窟に現れたのはその主なる神様が用意された千載一遇のチャンスだと思うのは当然すぎるのです。ダビデは動き出します。しかしサウルを殺害せず、国王の印が縫い込まれている上着の裾をこっそり切り取っただけでした。「5しかし、そのことで彼の良心は痛みだしたのです。(リビングバイブル)」とあります。なぜダビデは良心の痛みを覚えたのでしょう。ダビデがここでサウルを殺害したのなら、部下たち同様サウルの殺意から逃れたいだけの苦し紛れの行為です。さらに言うなら今までサウルがダビデにしてきた理不尽な暴挙に対する個人的復讐にしかならないのです。サムエルがサウルに宣告したように主なる神様が王座を取り去ることにはなりません。全部族のイスラエル人にもダビデの個人的な復讐としか映らないはずです。この個所は以下の場面と似ていると思いませんか。『サムエルが引き返して行こうとしたとき、サウルが彼の上着の裾をつかんだので、上着は裂けた。サムエルは彼に言った。「主は、今日、あなたからイスラエル王国を引き裂いて、これをあなたよりすぐれた隣人に与えられました。(1サムエル15:27-28)推測ですがこの事件もダビデはサムエルから聞かされていたのではないでしょうか。「自分はサウルと同じ行為をしてしまった」との思いも良心の痛みを覚えさせる原因だったのではないでしょうか。
💖この機会を置いてサウルを打倒する機会はないと感じさせる状況です。しかしこれは「自らの手で追っ手のサウルを倒し王座を我が物にできる」という誘惑に他なりません。21章以前のダビデの様に主なる神様の主権に任せることができず自力で解決しようとする信仰上の誘惑なのです。私たちは時として「千載一遇のチャンス」を「主の摂理的な導き」を肉の誘惑によって混同してしまうことがあるのです。主なる神様は荒れ狂う人生の逆風でダビデの人格を磨きあげようとしています。
語句①用を足す(3):英語cover his feet(KJV), relieve himself(気を静める);ヘブル語サハッフ・レゲル[囲う(閉じこもる)・足]・・・用を足す(新改訳2017・新共同訳・リビングバイブル)。士師記3:24にも同様な語句がある。排泄の婉曲表現。人目に付かない洞窟で仮眠を取ったという解釈もある。
語句②精鋭(2):英語chosen men;ヘブル語マヘール・イッシュ[選出(決定)された・男たち]
語句③上着の裾(4):英語the hem (of Saul’s) robe.;ヘブル語カナーフ・メイール・・・王だけが纏うことのできる洋服で裾には特別な印となるものがあったと思われる
語句④説き伏せる(7):英語stay;ヘブル語シャセー[割る,裂く] =注目地名=
地名①エン・ゲディ(1)英語Engedi;ヘブル語エン・ゲディ[子供の泉]・・・死海の西岸にあるユダの荒野の町
地名②エエリム(2):英語the wild goats.;ヘブル語ヤエイル[山羊]