サムエル記第一21章-1
サムエル記第一21章-1(1-9節)
=本章の内容=
❶ノブの祭司アヒメレクとダビデ
=ポイント聖句= 1-3,ダビデはノブの祭司アヒメレクのところに来た。アヒメレクは震えながら、ダビデを迎えて言った。「なぜ、お一人で、だれもお供がいないのですか。」ダビデは祭司アヒメレクに言った。「王は、あることを命じて、『おまえを遣わし、おまえに命じたことについては、何も人に知らせてはならない』と私に言われました。若い者たちとは、しかじかの場所で落ち合うことにしています。今、お手もとに何かあったら、パン五つでも、ある物を下さい。」 =黙想の記録=21章から29章までダビデの逃亡生活が記録されています。この記録では逃亡生活の中で主への信頼を全く失っているダビデのもろさから始まり、主への信頼を回復するまでの様子が克明に描かれています。本章は「人を恐れ主なる神への信頼を失ったダビデのもろさ」がテーマです。恐れの対象は「自分を追放したサウル王」であり「潜伏先にしようとしたガテの王アキシュ」でした。
❶1-9節:ノブの祭司アヒメレクとダビデ・・・前章でダビデはラマのナヨテにいた預言者サムエルの所に推定2年間も身を寄せていました。19章で前述した様にダビデはサムエルの保護下にいることができたはずなのです。ところがこの時のダビデは主なる神様の解決を待ちきれなかったのです。青年期特有の功を焦る信仰の脆(もろ)さから主なる神様に頼らず自力で解決を図ろうとして盟約を結んだサウルの息子ヨナタンに救いを求めに行くのです。しかし遭えなく失敗します。いよいよダビデは行き場がなくなり、今度はラマから約20km南下したところにあるノブの祭司アヒメレクのところへ逃れてきました。サムエルの預言者学校に通っていた際に何度となくアヒメレクに会い言葉を交わしたことでしょう。好意的に接してくれたアヒメレクの元に行くのは藁をもすがろうとするダビデの信仰の脆(もろ)さです。『1,・・・アヒメレクは震えながら、ダビデを迎えて言った。「なぜ、お一人で、だれもお供がいないのですか。」』ところがアヒメレクの所に命辛辛やってきたのですが、アヒメレクには自分保護するだけの力も愛情も持ち合わせてはいないことを一瞬にして気づいてしまうのです。「なぜ、お一人で、だれもお供がいないのですか。」のアヒメレクの言う「お供」とは本来サウルのつける護衛を意味していますが、ダビデの貧相な服も含め凡そ公式な訪問とは思えないのです。またアヒメレクはサウル王とダビデの確執を知っているはずですから、ダビデを匿うことは自分の命の保障はないことを熟知しているのです。するとダビデは「これはサウル王が命じた隠密行動である。サウルの付けた護衛とは別の場所で落ち合う。」との巧妙な嘘をつくのです。この嘘はわずかなパンを頂戴し腹を一時的に満たすためだけのものです。しかしこの些細な嘘がやがて今目の前で自分に丁寧に対応してくれているアヒメレクとその一族を全滅させてしまうなどとはダビデは夢にも思っていなかったのです。立ち寄った目的がパンの所望であると聞かされたアヒメレクはなおも疑いが解けません。サウルの遣わした「お供」が確かに存在するのかを確かめるために「聖別のパン」の取り扱いを語りダビデの反応を見るのです。ところがここでもダビデは平気で嘘に嘘の塗り重ねをするのです。「聖別のパン」を特別な条件の元に祭司以外の人物が与えることは許されています。ダビデの説明に何の落ち度も見つけられない事からアヒメレクはパンをダビデに差しだします。ところがその場面を改宗者であるエドム人ドエグが一部始終を見聞きしていたのです。ドエグはサウルの家事奴隷の長でこの衝撃的な目撃は自分の昇進のネタになると直感していたのです(22章9-10節)。ダビデはさらにもう一つの嘘をつきます。「8,・・・ここには、あなたの手もとに、槍か剣はありませんか。私は自分の剣も武器も持って来なかったのです。王の命令があまりに急だったので。」とゴリヤテの剣が聖所にあることをダビデは百も承知で白々しく言ってのけるのです。推測ですが、ダビデがゴリヤテの剣も所望した理由は、第一に自分の功績を傘にアヒメレクに今回の突然の訪問を権威付けるためです。第二は自分の功績の記念品が再び幸運の前兆となると思ったからなのです。ここにも「自分の詭弁に頼り主の言葉に頼らない」ダビデの信仰の脆さが露呈しているのです。
語句①震えながら(1):英語was afraid at(KJV), trembled[震える,身震いする](NLT);ヘブル語ハレイドゥ[震える,怖がる,びっくりする]
語句②聖別されたパン(4):英語hallowed bread;ヘブル語コデェシュ・レヘム[分離,聖別・パン]・・・週一度の安息日に祭司が幕屋の聖所に置かれた机の上に焼き立ての12個のパンを備える(出エジプト25:30)=臨在のパンと呼ばれ荒野時代に与えられたマナを表したもの。平常の生活の中に主なる神様が共におられたことを表現したもの。取り代えられた後のパンは奉仕に当たっている祭司だけが食することができた。これを祭司以外の者に与えるのは律法違反であるが特別な条件を満たしていれば与えることができた。
=注目地名=地名①ノブ(1):英語Nob;ヘブル語ノウブ[高い場所]・・・エルサレムの近くに位置するベニヤミン族の聖職者の住む都市
=注目人名=人名①アヒメレク(1):英語Ahimelech;ヘブル語アヒメレフ[私の兄弟は王である]・・・21章でダビデと接点を持ったことで一族もろともにサウル王に処刑される(22章)
人名②ドエグ(7):英語Doeg;ヘブル語ドエイグ[神を恐れる,信心深い,敬虔な]・・・エドム人で改宗者であった。サウル王の牧畜部門の責任者。名前とは真逆で冷酷で後に何の躊躇もせずにアヒメレクを処刑している。