列王記第一1章-2
列王記第一1章-2(1:10-38)
=本章の内容=
➌バテ・シェバとナタンの画策
=ポイント聖句=
20-21,王様。王様の跡を継いで王座に就くのはだれと告げられるのかと、今や、全イスラエルの目はあなたの上に注がれています。このままですと、王様がご先祖とともに眠りにつかれるとき、私と私の子ソロモンは罪ある者と見なされるでしょう。
38,そこで、祭司ツァドク、預言者ナタン、エホヤダの子ベナヤ、それにクレタ人とペレテ人が下って行き、ソロモンをダビデ王の雌ろばに乗せ、彼を連れてギホンへ行った。
=黙想の記録=➌10-38節:バテ・シェバとナタンの画策・・・そもそもソロモンの王位継承を明言したのはいつの頃だったのでしょう。Ⅰ歴代誌21・22章を見ると順番で行くとまず①人口調査の大罪を犯し多くの国民を失った事件②主のみ使いによって指定されたオルナンの所有地に神殿を建築する計画を表明する場面があります。この22章の神殿建築計画を表明するダビデの言葉の中に「ソロモンが神殿建築を実行する者、イスラエルに安寧をもたらす者」つまりダビデの後継者であること明言しています。またその箇所に「イスラエルに安寧をもたらす者は主なる神様が約束された人物である」と主なる神様の名前を出してソロモンに命じている箇所もあります。アドニヤが国王宣言したからには次の行動は敵対者の排除です。アブシャロムがそうであったようにアドニヤの行動に対応するためには速やかな対応処置を取らなければなりません。ところがナタンはバテ・シェバとの姦淫の一件や人口調査の一件でダビデにかなり強く諫言しているので、ダビデの方がナタンとの距離を置いていたように思われます。ここでダビデに直接会って進言しようものなら老いたダビデの逆鱗に触れるかもしれないのです。しかしあまりにも火急かつ重要なことなので、ナタンはダビデの最愛の妻バテ・シェバを介してダビデに諫言しようとしたのです。バテ・シェバにおいてもダビデとの関係をナタンに暴露されたわけですから疎遠になって当然です。しかし息子ソロモンの行く末に関係する一大事であることでナタンを迎え入れるのです。ナタンは①アドニヤが国王宣言したこと②ソロモンに王位を継承すると約束していた事をダビデに思い出させること③バテ・シェバが王室に入り事情説明した後で、ナタンが国王に謁見し「後付けの説明をする」とバテ・シェバに言って聞かせます。バテ・シェバはナタンの言う通りを実行します。ダビデは謁見の間に出て来られないほど衰弱していた様です。そこでバテ・シェバはダビデの寝所に出向きアドニヤの造反事件について説明します。「20-21,王様。王様の跡を継いで王座に就くのはだれと告げられるのかと、今や、全イスラエルの目はあなたの上に注がれています。このままですと、王様がご先祖とともに眠りにつかれるとき、私と私の子ソロモンは罪ある者と見なされるでしょう。」との言葉には、『①以前約束していたソロモンの王位継承宣言をダビデ自身が急ぎ行う必要性があること②アドニヤの行動を黙認していると今度はソロモンを亡き者にする行動に出る』との緊急性が滲み出ています。バテ・シェバが言い終えるのを見計らい偶然を装ってナタンは王に謁見します。ナタンがダビデに謁見するのはいつも重大事が起きた時です。ナタンに進言を許すとナタンはまずアドニヤの無謀を報告します。「24-25,王よ。あなたは『アドニヤが私の跡を継いで王となる。彼が私の王座に就く』とおっしゃったのでしょうか。・・・彼らは彼の前で食べたり飲んだりしながら、『アドニヤ王、万歳』と叫びました。」の言葉はかなり激しい言い方の筈です。アドニヤが国王宣言した様子は側近から聞いているはずなのに未だに対応がなされていないのです。「アムノンの時もアブシャロムの時も対応を曖昧にし先延ばしにしたからこそ問題が大きくなっていったのを思い出しなさい。」との諫言がその舌下には含まれているのです。ダビデは預言者の声に初めて目が覚めた様に決定を下します。ダビデは即刻祭司ツァドクと預言者ナタンそれに最側近であるべナヤに、エルサレム東のギホンでソロモンの王位継承を宣言する為に油注ぎの儀式を執り行わせます。ダビデ自身が愛用している国王の所有物である雌ろばにわざわざソロモンを乗せギホンに連れて行くのです。このギホンはかつてヨアブがエブス人の支配するエルサレムを陥落させるために潜入した突破口があった場所です。またこんこんと絶えることのない泉があることから永続性のシンボルとされていました。何かの儀式が行われる際にはこの場所を多用していたようです。またこの場所は多くの人を収容できるリゾート地でもあったようです。「34,祭司ツァドクと預言者ナタンは、そこで彼に油を注いでイスラエルの王とせよ。そうして、角笛を吹き鳴らし、『ソロモン王、万歳』と叫べ。」とありますが、先のアドニヤの国王宣言では預言者と祭司が同席するユダヤの伝統儀式「油注ぎ」は割愛されているのです。このギホンとエン・ロゲルは約700メートル。騒々しい宴会の真っ最中でもソロモンの即位式の様子が聞こえてくるほどの位置なのです。幕屋のあるエルサレムから若干離れてこの儀式を行ったのは、万が一アドニヤ一行が武力による騒動を起こした際に人的被害や物的被害が最小限で済むようにしたのです。「38,・・・それにクレタ人とペレテ人が下って行き、・・・」とありますが、クレタ人ペレテ人はいずれも外人傭兵部隊で実戦兵です。アドニヤには私兵がおりまたヨアブにも若干の護衛兵がいたはずです。仮に一戦を交えることがあればソロモン一行の方が武力的に上です。ダビデは用意周到だったのです。
[追記] 祭司ツァドクとエブヤタルは共にダビデにで熱心に仕える祭司でしたがアドニヤの造反事件では相対する存在になっています。エブヤタルがなぜアドニヤに組したのかは不明です。ダビデがツァドクをより重用したのでアドニヤが嫉妬したという説がある様ですが、そんな軽薄な人物とは思えません。これは私の推測ですが、エブヤタルはヨアブ同様国家の為に尽くすあまり、ダビデの失策が赦せずヨアブに同調していったのではないかと思われるのです。ヨアブとエブヤタルは烈士です。私利私欲の為にダビデに造反したとは到底思えないのです。穿った見方をすれば、この二人がアドニヤを国王として擁立することでわざと自分たちの幕引きを図ったと思えてならないのです。この二人はソロモンの心にある異教徒的雰囲気をすでに感じ取っていたのではないでしょうか。その為にアドニヤと心中してまでもソロモンに王位を譲ることを危惧する表明をしたかったのではないでしょうか。後にヨアブは処刑されます(2:34)が、エブヤタルは祭司職を剥奪されます(2:26)が命までは取られていません。 =注目地名=地名①ギホン(33):英語Gihon;ヘブル語ギホーン[吹き出物]・・・エルサレムダビデの町の真南に位置しエン・ロゲルとの距離はわずかに700m。泉が絶えず水を湧き上がらせるところから「不変性、堅固さ、永続性」の象徴とされる場所で住民はそこを多用し様々な儀式を執り行っていたと推測される。また千人規模の人々が一堂に会せる広場ともなっていたとも推測されている。